大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)2560号 判決

原告(反訴被告)

河口治男

ほか一名

被告(反訴原告)

鈴木富雄

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金三二万二三四四円及びこれに対する昭和六二年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  被告(反訴原告)の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五〇分し、その一を原告(反訴被告)及び反訴被告の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告(反訴原告、以下「反訴原告」という。)は、原告(反訴被告、以下「反訴被告治男」という。)に対し、金三五万八一六〇円及びこれに対する昭和六二年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  反訴被告治男の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴被告治男の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  反訴被告らは、反訴原告に対し、各自金一七八七万二四八二円及びこれに対する昭和六二年一月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告らの負担とする。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 交通事故の発生

(一) 事故発生日時 昭和六二年一月二日午前二時五五分頃

(二) 場所 名古屋市西区貝田町一丁目八六番地先道路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 反訴被告車両 普通乗用自動車(尾張小牧五五と九九二一)

(四) 右保有者 反訴被告治男

(五) 右運転者 反訴被告河口幸治(以下「反訴被告幸治」という。)

(六) 反訴原告車両 軽四輪貨物自動車(名古屋四〇て九四〇)

(七) 右所有者兼運転者 反訴原告

(八) 事故態様 本件事故現場は信号機のある交差点であるところ、反訴被告車両は青信号の表示に従つて時速約五〇キロメートルで直進した際、反訴原告車両が赤信号を無視して交差点を横断しようとするのを交差点約一二メートル手前で発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、反訴原告車両の右後方部に反訴被告車両の右前方部が衝突した。

2 反訴原告の責任原因

信号遵守義務違反という過失に基づく民法七〇九条の不法行為責任

3 反訴被告治男の損害

反訴被告車両修理代 三五万八一六〇円

4 よつて、反訴被告治男は、反訴原告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき三五万八一六〇円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六二年一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実のうち、(一)ないし(七)は認め、(八)のうち、本件事故現場は信号機のある交差点であること、反訴原告車両が交差点を横断しようとしたこと、反訴原告車両の右後方部に反訴被告車両の右前方部が衝突したことは認め、反訴被告車両が直進したこと、交差点約一二メートル手前で反訴原告車両を発見したことは知らず、その余の事実は否認する。

2 同2は争う。

3 同3の事実は知らない。

三  抗弁

過失相殺

四  抗弁に対する認否

争う。

(反訴)

一  請求原因

1 交通事故の発生

(一) 事故発生日時 本訴請求原因1(一)と同じ。

(二) 場所 同1(二)と同じ。

(三) 反訴被告車両 同1(三)と同じ。

(四) 右保有者 同1(四)と同じ。

(五) 右運転者 同1(五)と同じ。

(六) 反訴原告車両 同1(六)と同じ。

(七) 右所有者兼運転者 同1(七)と同じ。

(八) 事故態様 反訴原告車両が、本件事故現場の交差点を青信号の表示に従つて北から南へ直進しようとしたところ、折から同交差点に西から東へ赤信号を無視し、かつ時速七〇キロメートル以上の速度で進入してきた反訴被告車両と衝突した。

2 責任原因

(一) 反訴被告幸治

信号遵守義務違反及び速度超過という過失に基づく民法七〇九条の不法行為責任

(二) 反訴被告治男

自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づく運行供用者責任

3 反訴原告の受傷、治療経過及び後遺障害

(一) 反訴原告は、本件事故により頸部外傷、頸部挫傷等の傷害を負い、次のとおり治療を受けた。

加藤医院

入院 昭和六二年一月二日から同年二月九日までの三九日間

通院 昭和六二年二月一〇日から昭和六三年六月六日までの四八三日間(実日数六五日)

名鉄病院

通院 昭和六二年一月二七日から昭和六三年六月六日までの四九七日間(実日数二一日)

(二) 後遺障害

反訴原告の症状は、昭和六三年六月六日に固定し、自賠法施行令二条後遺障害等級別表に定める第一二級一三号に該当する後遺障害が残つた。

4 損害

(一) 治療費 二六万八六六〇円

加藤医院分 一七万九〇七〇円

名鉄病院分 八万九五九〇円

(二) 付添看護料 一九万五〇〇〇円

反訴原告の入院中、妻である鈴木芳子が付添看護した。

五〇〇〇円×三九日=一九万五〇〇〇円

(三) 入院雑費 四万六八〇〇円

一二〇〇円×三九日=四万六八〇〇円

(四) 交通費 八万八二三〇円

(五) 休業損害 五四四万七七一二円

反訴原告は、本件事故当時、大衆割烹「と志」を経営し、少なくとも昭和六二年賃金センサス記載の年齢別給与額五六六万八七〇〇円(年収)を下らない収入を得ていたが、本件事故により閉店を余儀なくされた。従つて、本件事故の日より「と志」の営業を再開した前日である昭和六二年六月三〇日までの一八〇日間の休業損害として二七九万五四〇〇円の損害を被つた。

また、右営業再開後も、反訴原告は、今日に至るまで傷害のため満足に稼働することができず、従来と比較し少なくとも五〇パーセント稼働できない状態であるところから、営業を再開した日である昭和六二年七月一日から症状固定日である昭和六三年六月六日までの三四二日間の休業損害として二六五万二三一二円の損害を被つた。

(六) 入通院慰謝料 一六〇万円

(七) 後遺障害逸失利益 八九二万二〇八〇円

反訴原告は、症状固定時四八歳であつたところ、六七歳まで稼働するにあたり、一二パーセントの労働能力を喪失した。

五六六万八七〇〇円×〇・一二×一三・一一六=八九二万二〇八〇円

(八) 後遺障害慰謝料 二四〇万円

(九) 損害填捕 二六九万六〇〇〇円

反訴原告は、本件事故による損害の填捕として自賠責保険から二六九万六〇〇〇円を受領した。

(一〇) 弁護士費用 一六〇万円

5 よつて、反訴原告は、反訴被告らに対し、本件事故による損害賠償として各自一七八七万二四八二円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六二年一月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実のうち、(一)ないし(七)は認め、(八)は否認する。

2 同2は争う。

3 同3の事実は知らない。

4 同4は争う。

三  抗弁

1 免責(反訴被告治男)

本件事故は、反訴被告幸治が反訴被告車両を運転して本件交差点を青信号の表示に従つて時速約五〇キロメートルで直進した際、反訴原告が赤信号を無視して反訴原告車両を運転して本件交差点を横断しようとするのを交差点約一二メートル手前で発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、反訴原告車両の右後方部に反訴被告車両の右前方部が衝突させたというものである。

このように、本件事故は、反訴原告の信号無視という一方的な過失によつて惹起されたものであり、反訴被告幸治は事故回避のために万全の措置を尽くしたものであるから何ら過失はなく、また、反訴被告車両には構造上の欠陥、機能上の障害もない。従つて、反訴被告治男は、自賠法三条但書により、本件事故につき免責されるべきである。

2 過失相殺(反訴被告両名)

四  抗弁に対する認否

全て争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

第一本訴請求について

一  本件事故の発生

1  請求原因1(一)ないし(七)の事実については、当事者間に争いがない。

2  そこで、同1(八)(事故態様)について検討する。

右当事者間に争いがない事実に加え、原本の存在及び成立に争いのない甲第一号証、成立に争いのない甲第四ないし六号証、反訴被告幸治本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

(一) 本件事故現場は、南北にほぼ直線に走る幅員約一一・六メートル(内車道部分七メートル、歩道部分四・六メートル)の市道(反訴原告車両進行道路)と東西にほぼ直線に走る幅員約七・五メートルの道路(反訴被告車両進行道路)とが交差する交差点内である。

(二) 反訴原告車両進行道路の制限速度は時速三〇キロメートル、反訴被告車両進行道路の制限速度は時速二〇キロメートルであつた。また、本件交差点には、信号機が設置されており、通常、午後一〇時から午前五時までの間は、反訴原告車両の対面信号機は、黄点滅信号を表示し、反訴被告車両の対面信号機は、赤点滅信号を表示していたが、本件事故当時は、機械の故障のため、点滅信号は作動しておらず、昼間と同じく青・黄・赤の表示であつた。

(三) 反訴被告幸治は、本件事故直前、反訴被告車両を運転して、時速約五〇キロメートルの速度で反訴被告車両進行道路を天塚町方面(西方)から平手町方面(東方)に向けて走行し、本件交差点手前約三〇メートルの地点で対面信号が青色を表示していることを確認し、対面信号の青色表示に従つて、減速せずに本件交差点に進入しようとしたところ、対面信号が赤色を表示していたにもかかわらず北方から時速約三〇キロメートルの速度で本件交差点に進入しようとしていた反訴原告車両に気付き、急制動の措置を採つたが間に合わず、反訴原告車両の右後輪付近と反訴被告車両の前部右側が衝突した。

ところで、反訴原告は、事故態様について、反訴原告が、対面信号の青色表示に従つて本件交差点に進入したところ、反訴被告幸治が対面信号の赤色表示を無視して本件交差点に進入したため本件事故が発生した旨主張し、反訴原告本人尋問において右主張に副う供述をする。

しかし、前掲甲第六号証、反訴被告幸治本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、昭和六二年一月四日頃、反訴被告幸治が、加藤医院に入院中の反訴原告を見舞つた際、反訴被告幸治に対し、「本件事故当時、反訴原告の対面信号は青色であつた。」と主張したこと、ところが、同月一一日頃、反訴被告幸治が再び反訴原告を見舞つた際には、「本件事故当時、反訴原告の対面信号は黄色の点滅信号、反訴被告幸治の対面信号は赤色の点滅信号であつた。」と主張したこと(反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故前、本件道路を仕事の関係でよく通つており、通常、午後一〇時から反訴原告車両の対面信号機は、黄点滅信号の表示に、反訴被告車両の対面信号機は、赤点滅信号表示に変わることを知つていたことが認められる。)、同月二二日頃、株式会社損害保険リサーチの従業員である小松健伍が、加藤病院において反訴原告に面談した際にも「本件事故当時、反訴原告の対面信号は黄色の点滅信号であつた。」旨主張したこと、しかるに、本件訴訟においては、再び「本件事故当時、反訴原告の対面信号は青色であつた。」との主張に戻つていることがみとめられる。このように本件事故原因に関して最も重要な対面信号機の表示についての主張が短期間の内に変遷していることに鑑み、反訴原告の右供述は措信しがたく、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

二  責任原因(請求原因2)について

前記一記載のとおり、本件事故は、反訴原告の信号遵守義務違反により発生したものと認められるから、反訴原告は、民法七〇九条により本件事故による反訴被告治男の損害を賠償する責任がある。

三  反訴被告治男の損害

1  弁論の全趣旨により真正に作成されたものと認められる甲第二号証によれば、反訴被告治男は、本件事故により、反訴被告車両の修理代とし三五万八一六〇円の支出を余儀なくされたことが認められる。

2  過失相殺

前記一記載のとおり、本件事故は、主として反訴原告の信号遵守義務違反により発生したものと認められるが、他方、反訴被告幸治においても制限速度(時速二〇キロメートル)を大巾に超過する時速約五〇キロメートルの速度で本件交差点に進入しようとした過失が存し、前掲甲第四及び第五号証によれば、反訴被告幸治の右過失も本件事故の一因をなしていることが認められるから損害額の算定については、右過失も斟酌すべく、反訴被告治男の右1の損害額からその一割を減ずるのが相当である。

四  そうすると、反訴被告治男の本訴請求は、反訴原告に対し、損害賠償金三二万二三四四円及びこれに対する不法行為の日である昭和六二年一月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてのみ理由がある。

第二反訴請求について

一  請求原因1(交通事故の発生)については、本訴請求についての理由第一一において述べた部分と同じであるから、これを引用する。

二  責任原因

1  反訴被告幸治

前記第一一記載のとおり、本件事故は、主として反訴原告の信号遵守義務違反により発生したものと認められるが、他方、反訴被告幸治においても制限速度(時速二〇キロメートル)大巾に超過する時速約五〇キロメートルの速度で本件交差点に進入しようとした過失が存し、前掲甲第四及び第五号証によれば、反訴被告幸治の右過失も本件事故の一因をなしていることが認められるから、反訴被告幸治は、民法七〇九条により本件事故による反訴原告の損害を賠償する責任がある。

2  反訴被告治男

反訴被告治男が反訴被告車両を所有していたことについては、当事者間に争いがなく、これによれば、同人が反訴被告車両を自己にために運行の用に供していたことを推認できるから、同人は、自賠法三条により、本件事故による反訴原告の損害を賠償する責任がある。

三  反訴原告の受傷、治療経過及び後遺障害について

原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、乙第七及び第八号証、成立に争いのない乙第三及び第四号証、乙第一二号証の一ないし一一、反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故により頸部外傷、頸部挫傷等の傷害を負い、昭和六二年一月二日から同年二月九日までの三九日間加藤医院において入院し、昭和六二年二月一〇日から昭和六三年六月六日までの四八三日間(実日数六五日)同病院に通院し、また、昭和六二年一月二七日から昭和六三年六月六日までの四九七日間(実日数二一日)名鉄病院に通院したこと、反訴原告の症状は、昭和六三年六月六日に固定し、反訴原告の顔面(額部)に長さ約一〇センチメートルの醜状障害、項頸部の異常緊張、左握力の軽度低下等の症状が残ったことを認めることができ、右後遺症の程度は自賠法施行令二条後遺障害等級別表に定める第一二級一三号に該当するものと考えられる。

四  反訴原告の損害

1  治療費 二六万八六六〇円

前掲乙第三及び第四号証によれば、反訴原告の前記治療のために二六万八六六〇円(加藤医院分一七万九〇七〇円、名鉄病院分八万九五九〇円)を要したことが認められる。

2  付添看護料

前掲乙第三号証、乙第七号証及び反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告の入院期間中、反訴原告の妻が付き添つて看護したことが認められ、右による損害は、一日当り三五〇〇円とするのが相当である。

3  入院雑費 三万九〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、反訴原告は、入院中一日一〇〇〇円を下らない雑費を支出したものと認められる。

4  交通費 五万円

弁論の全趣旨及びこれにより真正に作成されたもの認められる乙第八号証によれば、五万円の限度で本件事故と相当因果関係のある通院交通費相当に損害と認めるのが相当であり、その余の請求部分は理由がなく失当である。

5  休業損害 五四四万七七一二円

成立に争いのない乙第一四号証、乙第一五号証の一ないし四、反訴原告本人尋問の結果によれば、反訴原告は、本件事故当時、大衆割烹「と志」を経営し、少なくとも昭和六二年賃金センサス記載の年齢別給与額五六六万八七〇〇円(年収)を下らない収入を得ていたこと、本件事故により本件事故の日である昭和六二年一月二日から同年六月三〇日までの一八〇日間閉店を余儀なくされたこと、また、右営業再開後も、反訴原告は、本件事故による受傷から生じた、左手の痺れのために従来客に出していたふぐ料理を扱うことができなくなつたために、大巾な減収となつたことが認められる。これらの事実を踏まえて反訴原告の休業損害を考察すれば、反訴原告は、本件事故のため昭和六二年六月三〇日までの一八〇日間は完全な休業を、昭和六二年七月一日以降症状固定時である昭和六三年六月六日までの三四二日間は五〇パーセントの休業を余儀なくされ、右相当の休業損害を被つたものと認められる。

6  後遺障害逸失利益 五四〇万四四七〇円

前認定の後遺症の部位・程度に鑑み、それによる労働能力喪失率は一〇パーセント、労働能力低下の継続期間は一〇年とするのが相当である。

反訴原告が本件事故当時、五六六万八七〇〇円(年収)を下らない収入を得ていたことは、前認定のとおりであり、従つて、反訴原告が後遺症のため一〇年間に逸失すべき利益の本件事故当時における現価は、四五〇万三七二五円となる。

五六六万八七〇〇円×〇・一〇×七・九四四九=四五〇万三七二五円(円未満切捨)

7  慰謝料 三〇〇万円

前認定の反訴原告の本件事故による受傷内容及び程度、治療経過、後遺症の内容及び程度その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば、反訴原告が本件事故による受傷及び後遺症のため被つた精神的苦痛に対する慰謝料は三〇〇万円が相当である。

8  過失相殺

前記第一一において認定した事実によれば、本件事故は、主として反訴原告の信号遵守義務違反により発生したものと認めるところ、前記第一一において認定した反訴被告幸治の過失の態様を考慮すると、過失相殺として反訴原告の前記損害額の九割を減ずるのが相当と認められる。

そうとすると、反訴原告の過失相殺後の損害額は一四三万四六三四円(円未満切捨)となる。

9  損害の填捕と残存損害額

弁論の全趣旨によれば、反訴原告が本件事故による損害につき既に自賠責保険から二六九万六〇〇〇円の填補を受けていることが認められるところ、前記認定のとおり反訴原告が被つた本件事故と相当因果関係のある損害は合計一四三万四六三四円にとどまるのであるから、反訴原告は右損害の全額につき填補をうけていることとなり、もはや残存損害はないものといわなければならない。

10  弁護士費用

右のとおり、本件事故による反訴原告の損害は全て填補ずみであつて残損害はないから、損害の存在を前提とする弁護士費用の請求は理由がない。

五  以上から、反訴原告の反訴請求はその余について判断するまでもなく理由がなく、失当である。

第三結論

よつて、反訴被告治男の本訴請求は、反訴原告に対し、損害賠償金三二万二三四四円及びこれに対する不法行為の日である昭和六二年一月二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてのみ理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、反訴原告の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条及び九三条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深見玲子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例